福岡高等裁判所宮崎支部 昭和37年(ネ)57号 判決 1985年9月04日
控訴人亡西田以登こと
西田訴訟承継人兼控訴人本人
控訴人
西田堅太郎
右訴訟代理人
徳田一二
渡辺紘光
被控訴人亡山本利隆訴訟承継人被控訴人
山本常利
右同訴訟承継人被控訴人
山本常隆
右両名訴訟代理人
村田継男
松村鉄男
当事者参加人
有限会社久保商店
右代表者
久保祐吉
右訴訟代理人
金住則行
金住典子
主文
一 控訴人の本件控訴を棄却する。
二 当事者参加人は被控訴人らに対し、別紙目録記載の建物につき鹿児島地方法務局昭和三七年三月一九日受付第五七五九号によりなされた昭和三六年一二月二一日付売買を原因とする所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。
三 当事者参加人の控訴人及び被控訴人らに対する請求をいずれも棄却する。
四 控訴費用は控訴人の負担とし、参加費用は当事者参加人の負担とする。
事実
第一 当事者の求める裁判
一 控訴人
次の判決
(一) 原判決を取消す。
(二) 被控訴人ら及び当事者参加人の請求をいずれも棄却する。
(三) 訴訟費用は一、二審とも被控訴人らの負担とし、参加費用は当事者参加人の負担とする。
二 被控訴人ら
次の判決
(一) 本件控訴を棄却する。
(二) 当事者参加人の参加請求を棄却する。
(三) 当事者参加人は被控訴人らに対し別紙目録記載の建物(以下、本件建物という)につき、鹿児島地方法務局昭和三七年三月一九日受付第五七五九号によりなされた昭和三六年一二月二一日付売買を原因とする所有権移転登記(以下、「参加人への所有権移転登記」ともいう)の抹消登記手続をせよ。
(四) 参加費用は当事者参加人の負担とする。
三 当事者参加人(参加請求及び答弁の趣旨)
次の判決及び(一)2、3項につき仮執行宣言。
(一) 被控訴人らは当事者参加人に対し、
1 被控訴人らが控訴人に対し本件建物につき鹿児島地方法務局昭和二七年五月七日受付第四七二四号でなされた売主被控訴人ら先代山本利隆、買主西田卯三郎間の売買を原因とする所有権移転登記の抹消登記手続を請求する権利の存在しないことを確認せよ。
2 本件建物を明渡せ。
3 昭和三七年一月から本件建物明渡ずみまで月二万五、〇〇〇円の割合による金員を支払え。
(二) 控訴人及び被控訴人らは本件建物の所有権が参加人にあることを確認せよ。
(三) 被控訴人らの当事者参加人に対する請求を棄却する。
(四) 参加費用は控訴人及び被控訴人らの負担とする。
第二 当事者の主張
一 本件控訴事件について
(一) 被控訴人ら
1 本案前の主張
(1) 本件控訴は控訴人及び承継前の控訴人西田(以下、「西田以登」と表記する)の代理権のない弁護士徳田一二が提起したものであり不適法である。
(2) 右徳田弁護士辞任後右控訴人らの代理人として訴訟行為をなした弁護士山下兼満には真正な委任による代理権の授与がない。
2 本案の主張(請求原因)
(1) 被控訴人らの先代亡山本利隆は本件建物を所有していた。
(2) 控訴人の先代西田卯三郎は本件建物につき原判決主文第一項記載の所有権移転登記(以下、「西田卯三郎への所有権移転登記」ともいう)を経由している。
(3) 当事者参加人(以下、「参加人」ともいう)は本件建物につき前示西田卯三郎から参加人への所有権移転登記を経由している。
(4) 被控訴人らの先代山本利隆は昭和四七年一〇月二三日死亡し、被控訴人らがこれを相続して同人の権利義務を承継した。
(5) 控訴人の先代西田卯三郎は昭和三六年一二月二四日死亡し、西田以登及び控訴人がこれを同相続したところ、西田以登も昭和四六年一一月三日死亡したので控訴人が同人を相続し、結局控訴人は右二回の相続により西田卯三郎の権利義務一切を承継した。
(6) よつて、被控訴人らは、本件建物の所有権に基づき、控訴人に対し西田卯三郎の所有権移転登記の、当事者参加人に対し参加人の所有権移転登記の各抹消登記手続を求める。
(二) 控訴人、当事者参加人(答弁・抗弁)
1 答弁
(1) (本案前の答弁)被控訴人らの本案前の主張を争う。仮りにその主張のように代理権の欠缺があつたとしても、その両代理人が辞任後真正な選任を受け代理権を取得した現在の控訴代理人においてその無権代理行為を追認する。
(2) (本案の答弁)被控訴人ら主張の請求原因事実は全部認める。
2 抗弁
控訴人の先代西田卯三郎は被控訴人らの先代山本利隆から本件建物を昭和三七年五月七日頃買受けた。
(三) 当事者参加人(主張・抗弁)
1 本案前の主張
被控訴人ら訴訟代理人村田継男の本件訴訟代理は次のとおり弁護士法二五条一ないし三号に該当し、無効である。即ち、(1)同代理人は福岡高等裁判所宮崎支部昭和三六年(ネ)第一八一号建物収去土地明渡請求控訴事件(以下、甲事件ともいう)で同事件の西田卯三郎から事件の依頼を受け昭和三六年一一月二四日訴訟代理委任状を提出し、訴訟行為をなしたほか、昭和三七年一月二九日付で本件建物が右西田卯三郎の所有であるとして昭和三七年(ウ)第五号強制執行停止命令を受けた。
(2)ところが、被控訴人ら訴訟代理人村田継男は西田卯三郎の死亡後間もない昭和三七年一月二七日付をもつて、一転して被控訴人ら先代山本利隆から訴訟委任を受け、右西田卯三郎らの相続人である亡西田以登、控訴人の両名を被告として同月二九日本訴(以下、乙事件ともいう)を第一審の鹿児島地方裁判所に提起したものである。
2 抗弁
当事者参加人は本件建物を昭和三六年一二月二一日に所有者西田卯三郎から買受けた。
(四) 被控訴人ら(主張、抗弁に対する答弁・再抗弁)
1 答弁
(1) 当事者参加人の本案前の主張を争う。
被控訴人ら代理人の甲、乙両事件受任の経緯、事情は次のとおりであつて実質的に弁護士法二五条一ないし三号に該当せず、仮りに形式的に同条三号に当るとしても同条但書所定の事件の依頼者が同意した場合に該当し、同条違反にはならない。
即ち、当事者参加人は亡西田卯三郎を相手取り、本件建物の敷地を川畑善啓から買受けたと称して、本件建物収去土地明渡等請求訴訟、即ち、甲事件を提起したが、西田卯三郎は後示のとおり、山本利隆から同人への本件建物の売買が仮装であつて、同人には本件建物の所有権がないところから、これを放置し欠席判決を受けた。偶々このことを山本利隆が知り、同人が右西田の同意を得て、実質上山本利隆が右西田名義をもつて被控訴人ら訴訟代理人に甲事件の訴訟委任をし、同代理人は右事件の控訴をし、強制執行停止決定を申請して争つた。
なお、当事者参加人は西田卯三郎の死亡した昭和三六年一二月二四日の後間もない翌昭和三七年一月一〇日控訴取下をなし、右強制執行を敢行しようとしたものである。
そこで、やむなく右山本利隆は右被控訴人ら訴訟代理人に乙事件を訴訟委任し、本訴を提起するにいたつた。
(2) 控訴人、当事者参加人主張の前示(二)2の抗弁を認める。
(3) 当事者参加人主張の前示(三)2の抗弁を否認する。なお、仮りに右抗弁のとおり西田卯三郎が本件建物を当事者参加人に売つたとしても、それは本件建物のうち昭和二一年二月に建設した木造板葺平家建居宅一棟建坪一二坪二合五勺の部分(以下、「増築前の本件建物」という)に限られ、その余の部分は売買されていない。
2 再抗弁
(1) 控訴人、当事者参加人が主張する被控訴人ら先代山本利隆から控訴人先代西田卯三郎への本件建物の売買契約は虚偽表示によるものであるから無効である。
即ち、右山本利隆は右西田卯三郎と通謀のうえ、右山本が事業に失敗し多額の負債を有していたため、財産を隠匿して債権者の追及を免れる目的で、右山本から右西田へ本件建物を売渡したかの如き、前示西田卯三郎の所有権移転登記を了し、売買契約をしたかのように仮装したものである。
(2) 仮りに、当事者参加人主張の前示(三)2の抗弁事実、即ち西田卯三郎から当事者参加人への本件建物の売買の事実があつたとしても、これは当事者参加人の代表者久保祐吉及び支配人早出勝人の弁護士法七二条、七三条に反する行為としてなされたもので無効である。
即ち、被控訴人ら先代山本利隆が前示1(1)記載の経緯で被控訴人ら訴訟代理人に依頼して本訴を提起するに及んだが、西田卯三郎はもとよりこれを争う意思がなく欠席判決となり、右山本利隆が勝訴したところ、報酬を得る目的で本件訴訟等を取扱うため当事者参加人の支配人となつていた早出勝人が無断で西田卯三郎の相続人西田以登、西田堅太郎名義で徳田一二弁護士に訴訟委任して控訴したが、同弁護士が被控訴人らからその代理権を否認され辞任するや、右早出が当事者参加人の訴訟代理人支配人として当事者参加するに及んでいる。
そして、当事者参加人及び個人会社である同参加人の代表者久保祐吉は従前から弁護士でないのに訴訟事件等の法律事務を取扱い、若しくは他人の権利を譲受けて訴訟その他の手段によつて、その権利を実行することを業とする者であつて、本件建物の右売買も右の業務の一として行なわれたものである。
(五) 控訴人、当事者参加人(再抗弁に対する答弁・再々抗弁)
1 答弁
被控訴人ら主張の前示四2(1)、(2)の再抗弁を否認ないし争う。
2 再々抗弁(当事者参加人に限る)
仮りに被控訴人ら主張の前示(四)2(1)の再抗弁、即ち、山本利隆、西田卯三郎間の本件建物の売買契約が虚偽表示により無効であるとしても、当事者参加人は前示(三)2のとおり西田卯三郎から本件建物を買受けた善意の転得者であつて虚偽表示の効果につき正当な利害関係を生じた第三者であるから、被控訴人らは右無効を当事者参加人に対抗できない。
(六) 被控訴人ら(当事者参加人の再々抗弁に対する答弁)
当事者参加人主張の前示(五)2の再々抗弁を否認する。
二 参加事件について
(一) 当事者参加人(参加請求原因)
1 控訴人の先代西田卯三郎は本件建物を被控訴人ら先代山本利隆から昭和二七年五月七日頃買受け、西田卯三郎への所有権移転登記をした。
2 当事者参加人は本件建物を昭和三六年一二月二一日右西田卯三郎から買受けた。
3 被控訴人らは本件建物を占有し、その所有権を主張し被控訴人ら及び控訴人は当事者参加人の所有権を争い、被控訴人らは右西田卯三郎への所有権移転登記の抹消登記請求権があるとして本訴を提起している。
4 よつて、当事者参加人は
(1) 被控訴人らに対し、前示第一の三(一)1ないし3の参加の趣旨のとおり右西田卯三郎の所有権移転登記の抹消登記請求権の存在しないことの確認、本件建物の明渡、昭和三七年一月以降の賃料相当損害金の支払、
(2) 控訴人及び被控訴人らに対し、本件建物の所有権が当事者参加人にあることの確認、
を求める。
(二) 控訴人(答弁)
1 当事者参加人主張の参加請求原因1、3を認める。
2 同2を争う。
(三) 被控訴人ら(答弁・抗弁)
1 答弁
(1) 当事者参加人主張の参加請求原因1、3を認める。
(2) 同2を否認する。
2 抗弁
(1) 前示山本利隆、西田卯三郎間の本件建物の売買契約は前示一(四)2(1)の本件控訴事件の再抗弁のとおり虚偽表示により無効である。
(2) 仮りに前示西田卯三郎、当事者参加人間に本件建物の売買契約があつたとしても、これは右一(四)2(2)の再抗弁のとおり当事者参加人の代表者久保祐吉及び支配人早出勝人の弁護士法違反行為によりなされたもので無効である。
(四) 当事者参加人(抗弁に対する答弁・再抗弁)
1 答弁
右抗弁2(1)(2)を否認する。
2 再抗弁
前示一(五)2の本件控訴事件の再々抗弁のとおり、仮りに前示山本利隆、西田卯三郎間の本件建物の売買契約が虚偽表示により無効であるとしても、当事者参加人はその転得者であつて虚偽表示の効果につき正当な利害関係を生じた善意の第三者であるから、被控訴人らは右無効を当事者参加人に対抗できない。
(五) 被控訴人ら(再抗弁に対する答弁)
当事者参加人主張の右再抗弁を否認する。
第三 証拠<省略>
理由
第一本案前の検討
一控訴人らの訴訟代理人の代理権について
本件控訴は控訴人及び承継前の控訴人西田以登の訴訟代理人として弁護士徳田一二がなしたものであること、右徳田弁護士が辞任後、弁護士山下兼満が右控訴人らの訴訟代理人として訴訟行為を行なつたことは、本件訴訟記録上明らかである。被控訴人らは右弁護士徳田一二及び弁護士山下兼満が真正な委任による訴訟代理権の授与がない旨主張するが、右両弁護士が辞任後昭和五六年三月三一日に控訴人が真正に選任した訴訟代理人である弁護士渡辺紘光が適法な訴訟代理権を有することについては当事者間に争いがなく、かつ、このことは控訴人作成の委任状その他本件記録上明らかであるところ、同訴訟代理人は当審第六三回口頭弁論期日において、本案について弁論をなし、かつ、前示訴訟代理人徳田一二、山下兼満の訴訟行為を追認したことは、当審記録中の右第六三回口頭弁論調書により明白である。
したがつて、たとえ被控訴人ら主張のように右徳田一二、山下兼満に訴訟行為をなすに必要な授権を欠き適法な訴訟代理権がなかつたとしても、その後適法に選任された権限のある訴訟代理人が右のように本案の弁論をなし、或いは無権代理人の訴訟行為を追認したことにより右訴訟行為は民訴法五四条に従い行為の時に遡つてその効力を生ずるものであるから、その余の判断をするまでもなく、被控訴人らの本案前の主張は理由がなく、採用できない(最判昭和三四・八・二七民集一三巻一〇号一二九三頁、最判昭四七・九・一民集二六巻七号一二八九頁参照)。
二被控訴人ら訴訟代理人の訴訟代理権について
当事者参加人は本件控訴事件の参加人の本案前の主張(三)1のとおり、被控訴人ら訴訟代理人村田継男の本件訴訟代理行為は弁護士法二五条一ないし三号に該当し、無効である旨主張するので検討するに、後示認定の〔9〕ないし〔17〕の事実の経緯、とくに〔12〕の事実に照らすと、なるほど弁護士村田継男は参加人主張のとおり控訴人の先代西田卯三郎名義で参加人が同人に対して提起した前示甲事件、即ち、本件建物収去土地明渡事件の控訴事件を受任し、強制執行停止決定を得たが、その後間もなく、後示認定〔16〕のとおり参加人の画策で右控訴が取下られたことが認められるが、これは山本利隆が所有する本件建物の登記簿上の名義人に過ぎない西田卯三郎の了解を得たという山本利隆の説明を信じ、同人の依頼で西田卯三郎名義で実質上山本利隆の代理人として右控訴事件を受任し訴訟行為をしたものであつて、西田卯三郎から弁護士法二五条一号所定の「協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した」とか、「協議を受けたもので、その協議の程度及び方法が信頼関係に基くと認められる」とか、現に同人から「受任している事件」があるとは認められず、後示措信しない証拠のほかこれを認めるに足る的確な証拠がない。
それのみならず、弁護士が訴訟手続において弁護士法二五条一号ないし三号違反の訴訟行為をなした場合であつても、相手方がこれを知り又は知り得たにもかかわらず、何らの異議を述べないで訴訟手続を進行させたときは、訴訟上完全に効力が生じ、第三者はもとより相手方においても後日に至り当該訴訟行為が弁護士法の禁止規定に違反することを理由としてその無効を主張することはできないと考える(最判昭和三〇・一二・一六民集九巻一四号二〇一三頁、最判(大法廷)昭和三八・一〇・三〇民集一七巻九号一二六六頁参照)。
そして、本訴においては参加人主張の弁護士法二五条一号ないし三号所定の相手方に当る西田卯三郎の相続人である本件における承継前の控訴人西田以登、控訴人西田堅太郎において本件被控訴人ら訴訟代理人村田継男の訴訟代理行為につき右弁護士法違反があることなどにつき何らの異議も述べず、これを容認して訴訟行為を追行していることが記録上明らかであるから、右弁護士法所定の相手方でない第三者たる当事者参加人の前示本案前の主張は許されないものと解するのが相当である。
よつて、参加人の本案前の主張はいずれの点からみても失当であつて、採用できない。
第二本案の検討
一当事者間に争いのない事実と争点
(一) 被控訴人ら主張の請求原因事実は全部三当事者間に争いがない。
(二) 本件控訴事件(二)2の抗弁、参加事件の参加請求原因(一)1の事実、即ち、控訴人の先代西田卯三郎が被控訴人ら先代山本利隆から本件建物を昭和二七年五月七日頃買受け、その旨の所有権移転登記を経由した事実は三当事者間に争いがない。
(三) 本件の主たる争点は、右山本利隆、西田卯三郎間の本件建物売買が虚偽表示により無効であり、かつこれを参加人に対抗できるか、西田卯三郎、参加人間の本件建物の転売買の存否及びその弁護士法違反による効力如何にあるので、以下これらの点につき順次検討していく。
二事実の認定
<証拠>を総合すると、次の事実を認めることができる。
〔1〕 本件建物の敷地(以下、本件土地という)は他の一筆の土地と共にもと一筆の土地(以下、「分筆前の土地」という)であつたところ、これを他から買受けた渡辺フミから同女の願望で川畑家の養子となつた川畑善啓は右分筆前の土地の贈与を受けたが、川畑家の血筋を引く山本常次郎の子山本チエとその夫で婿養子である山本利隆(被控訴人らの先代)との間に昭和一三年三月五日山本常利が出生したところから右土地の分配を願う山本常次郎の意を受けた右山本利隆は、古くから右渡辺フミ所有の本件土地上の旧建物を借り受け居住していたことでもあり、本件土地の分配を希望していた(<証拠略>)。
〔2〕 昭和二一年二月一六日頃被控訴人らの先代の山本利隆は、前示自己が居住する旧建物が第二次大戦の戦災により焼失した跡に鹿児島市長に建築着手届を提出して増築前の本件建物を本件土地上に建築した(<証拠略>)。
〔3〕 昭和二四年九月五日被控訴人らの先代山本利隆は古鉄売買業を営んでいた関係で県知事に無届で本件土地上に増築前の本件建物に接して倉庫一棟一二・〇九平方メートル、板塀一ケ所一二メートルを建築(増築)した点を詫びる旨の顛末書を出し(甲第三八号証の一、二)、同月二四日事後的に建築許可を得ている(<証拠略>)。
〔4〕 その前後から右山本利隆は古鉄売買、金属回収業の関係で大阪市浪速区にある古銅問屋の丸十商店(尾川原信三郎の個人経営)と取引関係にあり、古銅などを納入していたが、昭和二六年一一月一三日の同店の山本利隆に対する仕切書(乙第二号証)には、同店が右山本に古銅等の買付資金二〇万円を送付する旨、及び同日の帳尻が五〇七万九、六二五円六〇銭の貸方となること、並びに当時同店が一〇銭銅貨鋳潰しの件で警察問題になりゴタゴタしている旨が記載されている(<証拠略>)。
〔5〕 同年(昭和二六年)一二月二五日前示丸十商店が法人成りし、株式会社尾河原商店を設立して翌昭和二七年一月一日から営業を開始し、前示尾川原信三郎の子の尾川原修一が代表取締役に就任したが、実権は父の信三郎が持つていた(<証拠略>)。
〔6〕 昭和二七年五月頃、山本利隆がサルベージその他で古鉄、金属(鉋金、色物等)等を買取るというので、従前から、尾川原信三郎、修一は税金対策上、会社とは別に偽名を用いて同人に個人で資金を貸付けていたが、その頃、一番番頭の西田卯三郎に対し、品物(古金属)の送付が少なくなりかけていた山本利隆と談判して残債務及び今後の資金貸付のための根担保の性質を有する譲渡担保を徴求すること、なお右山本に適当な物件があり、名義を変える必要があれば、法人成前の丸十商店の脱税事件につき調査を受けていた関係上、これを西田卯三郎名義で取得して来ることを命じて、西田を鹿児島へ赴かせた(<証拠略>)。
〔7〕 その頃、山本利隆の方でも、古金属商の事業が不振に陥り、所得税の滞納等で国税局の特別班の調査、査察を受けて追徴金等が賦課されたこともあつて、財産の差押の危険を感じた同人はこの差押を免れるため税理士小島衛一に相談し、同人から池田司法書士を紹介して貰い、本件建物の所有名義を他へ変更しようと画策していた。その折前示〔6〕のような命を受けた株式会社尾河原商店の番頭西田卯三郎が鹿児島に来て前示のとおり本件建物を譲渡担保(根担保)として、西田卯三郎名義に仮装譲渡することを求めたので、ここに、山本利隆と控訴人先代の西田卯三郎は、本件建物を前示〔6〕のとおり山本利隆が右尾河原商店に対する商取引上の貸金債務の譲渡担保(根担保)として提供し、かつ、山本利隆の税務署からの差押を免れる目的のため、右尾河原商店の税金対策上の便宜をも考慮して、山本利隆から西田卯三郎へ本件建物を昭和二七年五月六日付をもつて売渡したかの如く記載した売買契約書を作成して、同月七日その旨の所有権移転登記を経由し、もつて右売買契約をしたかのように仮装した。
なお、山本利隆は、右登記のため、同月五日それまで未登記であつた本件建物の表示登記を了し、同月七日その所有権保存登記を経由したうえ、同日右西田卯三郎への所有権移転登記をしたものである。このような仮装売買により山本利隆は本件建物の差押を免れたものの、同年一一月一八日には税務署から所得税滞納により動産の差押を受けた(甲第三三号証、乙第三号証)(<証拠略>)。
〔8〕 前示尾河原商店の尾川原信三郎などは、本件建物が同店の番頭である西田卯三郎の所有名義になつたことに安心し、山本利隆に対しそのサルベージによる古鉄回収などに資金援助を読け、昭和二九年頃にも尾川原信三郎から山本利隆あてに「金の方は及ばずながら廻す」とか「従来通り金の方は御融通御便宜を計る」との手紙を出し融資を続けていたが、本件建物につき貸金残債権との清算は全くなされないまま放置されていた(<証拠略>)。
〔9〕 昭和三四年四月二四日頃被控訴人らの先代山本利隆と川畑善啓は、山本利隆が昭和二五、六年頃川畑善啓の実父高山清蔵に貸付けていた貸金一六万円の返済や前示〔1〕の事情等と関連して、分筆前の土地を本件土地と他の一筆の土地(以下、「分割地」という)に分筆登記を経由し、本件建物の敷地である本件土地を山本利隆の所有とし、分割地を川畑善啓の所有としたうえ、これを一括して他へ売却し代金を分配する話合いがなされていたところから、昭和三六年頃、高山清蔵の債権者である岩切寛から汽車の中で本件土地、分割地の全部の売却を依頼された不動産仲介業者奥武男、迫田新助らが売買の仲介に努めたが、これがなかなか進捗しなかつたため、遂いに川畑善啓は、山本利隆には無断で、表向き不動産業者と名乗つて他の紛争物件を買受けたり、買受名義で自己にその所有名義を移し訴訟その他の方法で他人の紛争に介入することを業とするいわゆる事件屋として鹿児島方面において暗躍し、昭和三五年一二月鹿児島県弁護士から非弁護士と名指されていた参加人の代表者久保祐吉を知り、参加人に対し本件土地及び分割地はすべて川畑善啓の所有であるとして、これを他へ売却してその売買代金で高山清蔵の債務等を弁済して負債整理を依頼し、そのため本件土地、分割地を参加人に信託的に譲渡し、同年(昭和三六年)七月二八日付で同月二七日売買を原因とする所有権移転登記を了した(<証拠略>)。
〔10〕 昭和三六年八月一四日、前示〔9〕のとおり本件土地を分割地と共に買受けたことを理由に、参加人は、西田卯三郎を相手取り本件建物収去土地明渡と賃料相当損害金の支払を求める訴を鹿児島地方裁判所に提起すると共に、同月一九日本件建物につき処分禁止の仮処分決定を取得して同月二一日その旨の登記を経由した(<証拠略>)。
〔11〕 昭和三六年一〇月四日、参加人代表者久保祐吉は、さきに当裁判所支部で有印私文書偽造、同行使、公正証書原本不実記載、有価証券偽造、同行使罪により懲役一年に処せられた事件の上告事件が上告棄却により確定するにいたり、収監される日が迫つていた。
そこで、右久保祐吉はこれも従前から不動産取引などに関連して非弁護士活動を行ない、昭和二七年頃から昭和三五年頃までの間右の活動のため沖縄へ往復していた早出勝人と知り合い同人を自宅に宿泊させる等して昵懇にしていたところから、同人に服役中の事件処理を依頼し、その頃(昭和三六年一〇月頃)から同人を代理人として久保祐吉の補助をさせ、昭和三七年一月頃支度金名義で一〇〇万円を支払い、毎月二万五、〇〇〇円の報酬を与える約束で右早出を参加人の支配人として選任し、同年四月二日頃収監命令を受けて服役した(<証拠略>)。
〔12〕 同年(昭和三六年)一〇月一一日当事者参加人は前示〔10〕記載の本件建物収去土地明渡請求事件(甲事件)につき西田卯三郎欠席のため、当事者参加人勝訴の欠席判決を取得し、大工に解体収去を依頼した。同月二四、五日頃、山本利隆居住の本件建物の周囲を大工が見廻つているので同人がこれを咎めると、建物の解体依頼を受けて来たというので、山本利隆は、山下司法書士と相談し、急拠大阪市の前示尾河原商店の代表取締役である尾川原修一と会い、事情を質したところ、西田卯三郎は病気入院中であるし、右尾川原が本件建物の前示〔7〕の譲渡担保権を持つている関係で、西田卯三郎あての前示訴状、欠席判決などを所持しており、「こういう書類が来て非常に迷惑しているからあなた(山本)の方で処理してくれ」というのて、山本利隆はこれを承諾して右書類を持帰つた。
そして、早速これを山下司法書士に見せたところ、控訴をする必要があるというので鹿児島から大阪の前示尾川原修一に山本利隆及び右山下司法書士が電話し、その了解を得て、大阪へ赴く余裕がないため、西田卯三郎名義の印を鹿児島で調製することにし、山下司法書士が西田卯三郎名義の控訴状を作成して控訴を提起すると共に、山本利隆において、西田卯三郎名義で弁護士村田継男に右控訴事件を委任した。村田弁護士は、山本利隆がいう本件建物は実質上山本が所有権を有するものであるが、税金対策上西田卯三郎名義になつている旨の説明を信じてこれを受任し、実質上は山本利隆の代理人として強制執行停止決定を得るなどの訴訟行為をし、その後大阪市に尾川原修一を訪ねた折も、尋問口調で同人に事情を質したので、同人は感情を害し、「返事をする必要がない」と云つて返答を拒絶している。また、尾川原修一も山本利隆に控訴を了承したことがあるが、村田弁護士に訴訟委任をすることは知らないし、訴訟委任したことがないと考えている(<証拠略>)。
〔13〕 同年(昭和三六年)一〇、一一月頃山本利隆が西田卯三郎名義で前示〔12〕のとおり前示本件建物収去土地明渡事件につき控訴を申立てたことを知つた狡智な参加人代表者久保祐吉は、前示早出勝人に控訴審で争うのは馬鹿らしいから何とか本件建物を買取るように命じた(<証拠略>)。
〔14〕 同年(昭和三六年)一二月一七、八日頃右早出は大阪市内の日生病院に入院中の西田卯三郎を訪問したが、同人は重体で、同人の妻西田以登がかねてから前示尾川原修一に何も関係がないので知らないといつてくれといわれていたので、右以登は早出に右尾川原のところに行くようにいつた(<証拠略>)。
〔15〕 同日早出は尾川原修一と会い本件建物買受けの申入れをしたところ、同人は本件建物は西田卯三郎名義になつているが、同人は重体で再起の見込みがないので内輪の者と相談して売りたいと答えた。
そして、同年同月(昭和三六年一二月)二一日大阪市内の尾河原商店の事務所において、尾川原修一は西田卯三郎に了解を得ることなく、同商店が保管していた同人の印鑑を使用して同人名義で、同人から参加人の代理人早出勝人に本件建物を二五万円で売渡し、前示本件建物収去土地明渡事件の控訴を取下げる旨の契約をした(丙第一号証の存在(検証物)、甲第四二号証)。参加人はその後右尾川原修一に売買代金を支払い昭和三七年三月一九日その旨の所有権移転登記を了した(甲第四一、第八〇号証、丙第一六号証)。
なお、西田卯三郎は昭和三六年一〇月八日前立腺肥大症、第二期潜伏梅毒、肝障碍(肝癌の疑い)で尿閉のため大阪市内の日生病院に緊急入院。同年一一月二四日重症のため転室、同月二九日切開手術、一二月四、一一日二回に亘り腹水穿刺、同月二一日一〇時五〇分以来状態悪化、強心剤クール、同月二二日から意識もうろう、嗜眠状態、うなるのみ。同月二四日危篤、死亡(甲第四〇号証の二)(<証拠略>)。
〔16〕 その後、前示のとおり同年同月(昭和三六年一二月)二四日西田卯三郎が死亡したり、年末のことで尾川原修一は、前示控訴取下書を出すのを失念していたが、早出勝人から強い催促を受け、西田卯三郎の相続人である西田以登、控訴人の連名の控訴取下書を同人らに無断で作成して参加人に送付し、昭和三七年一月一〇日参加人はこれを当裁判所支部に提出して前示本件建物収去土地明渡請求事件(甲事件)の一審判決を確定させ、同月一八日執行文の付与を受けた(<証拠略>)。
〔17〕 昭和三七年一月二九日山本利隆は弁護士村田継男を訴訟代理人として承継前の控訴人西田以登、控訴人西田堅太郎を相手取り本件建物につきなされている西田卯三郎の所有権移転登記抹消登記請求の本訴を原審(鹿児島地方裁判所)に提起し、同年三月五日欠席判決を取得したが、その頃これを察知した参加人代表者久保祐吉は支配人早出勝人をして右判決を確認させ、大阪市の尾川原修一のところに赴かせたが、早出は同人が会社が倒産状態にあるので早出の方で勝手に処理すればよい旨答えたので、右尾川原の承認を得て早出において西田以登、西田堅太郎名義の訴訟委任状を適宜作成して弁護士徳田一二に訴訟委任し、本件控訴を提起するにいたつた(<証拠略>)。
〔18〕 一方、参加人は同年(昭和三七年)一月二二日本件建物の表示を昭和二八年三月一五日増築を原因として建物表示変更代位登記を了した(<証拠略>)。
〔19〕 同年(昭和三七年)三月一九日当事者参加人は前示〔15〕のとおり売買を原因として本件建物につき所有権移転登記を経由した(<証拠略>)。
〔20〕 同年九月三日当事者参加人はその支配人早出勝人を訴訟代理人として本訴につき当裁判所支部に独立当事者参加を申立て、その後参加人代表者久保祐吉が訴訟行為を行なつた(本件記録上明らかな事実)。
〔21〕 参加人の代表者である久保祐吉は、戦後、鹿児島市内において個人で不動産業を始め、昭和二七年頃からは主として裁判所の競売不動産を扱うようになり、昭和二九年頃から次第に右不動産業の傍ら裁判係属中の不動産等の権利や賃借権、抵当権等が設定された紛争中の不動産等の権利を譲り受け訴訟その他の手段によつてその権利を実行することを業としていたが、昭和三一年頃税金対策等から家族を役員として不動産売買等を目的とする参加人(有限会社久保商店)を設立してその代表取締役となり、昭和三四年一〇月頃から同会社名義で前示業務を継続しているものの、同会社は実質的に久保祐吉の個人会社で、両者は一心同体の関係にある。
そして、右久保祐吉は鹿児島地方裁判所で前示〔9〕の本件土地、分割地の買受(信託的譲受)及び前示〔15〕の本件建物の西田卯三郎名義の買受契約につき弁護士法七三条違反の罪により懲役一年に処せられ昭和四四年三月六日当裁判所支部で控訴棄却され、その頃これが確定し服役した(<証拠略>)。
〔22〕 早出勝人は前示〔11〕のとおりかねてから非弁護士活動を行ない訴訟手続に慣熟しているところから、参加人代表者久保祐吉に頼まれ、報酬を得る目的で同人の服役中における参加人の訴訟手続を進行の委任を受けて、参加人の支配人に選任されて、本件建物をめぐる訴訟内外の事務処理に当つた。
その後、早出勝人は、昭和四〇年九月二一日頃から昭和四一年六月三〇日までの間、今吉覚次から委任を受け前後三回に亘り弁護士でないのに報酬を得る目的で一般法律事件について法律事務を取扱つた弁護士法七七条、七二条違反の罪につき昭和四三年五月二四日鹿児島地方裁判所で懲役一〇月に処せられたが、昭和四四年七月三日当裁判所支部で右判決が破棄され、懲役一〇月、執行猶予三年の言渡を受け、これが昭和四五年一二月一七日最高裁判所第二小決廷の上告審判決により確定した(甲第四五ないし第七八号証)。
<証拠>、当裁判所に顕著な事実に照らし遽かに措信し難く、他に右認定を覆すに足る証拠がない。
三山本利隆、西田卯三郎間の売買の効力
(一) 仮装売買の検討
被控訴人ら主張の本件控訴事件の再抗弁2(1)、参加事件の抗弁2(1)のとおり、右山本利隆、西田卯三郎間の売買が通謀虚偽表示により無効であるか否かにつき検討するに、前認定二の〔1〕ないし〔8〕の事実、とくに〔6〕〔7〕の事実を考え併せると、昭和二七年五月六日付の山本利隆から西田卯三郎への本件建物の売買は、被控訴人ら主張の山本利隆の税務署から滞納処分による差押等の執行を免脱する目的と共に本件建物を株式会社尾河原商店ないし尾川原信三郎、修一に対する貸金債務を担保するための譲渡担保(根担保)を同人らに設定したものであるが、右尾河原商店らの税金対策上、同店等の名前を秘匿してその便宜を図る目的を兼ねて、山本利隆と西田卯三郎が通謀のうえ、右山本から右西田への本件建物を前同日付をもつて売渡したかのように記載した売買契約書を作成して、同月七日その旨の所有権移転登記を経由し、もつて右売買契約をしたかのように仮装した事実を認定することができ、前示措信しない証拠のほか右認定を覆すに足る証拠がない。
したがつて、右山本利隆、西田卯三郎間の本件建物の売買契約は民法九四条一項により無効であるから、被控訴人ら主張の前示本件控訴事件の再抗弁2(1)、参加事件の抗弁2(1)はその理由がある。
(二) 参加人に対する対抗力の有無の検討
当事者参加人は本件控訴事件の再々抗弁(五)2及び参加事件の再抗弁(四)2の参加人が西田卯三郎から本件建物を買受けた善意の転得者であつて、前示山本利隆、西田卯三郎間の虚偽表示による仮装売買の効果につき正当な利害関係を生じた第三者である旨主張するが、後示四(一)のとおり西田卯三郎、参加人間は本件建物の転売契約が存在したものとはいえないし、その契約があつたとしても、前認定〔9〕ないし〔17〕の事実に照らし、参加人は本件建物の山本利隆、西田卯三郎間の売買が前示のとおり仮装売買であることを右転売買契約当時既に察知していたのではないかとの合理的疑いが生じこれを払拭できず、参加人主張のように参加人がこの点につき善意であつたとの事実が認められないことが明らかであつて、前示措信しない証拠のほか、これを認めるに足る的確な証拠がない。
四西田卯三郎、参加人間の転売買の存否と効力
(一) 転売買存否の検討
当事者参加人は本件控訴事件の抗弁(三)2、参加事件の参加請求原因(一)2において、参加人が本件建物を昭和三六年一二月二一日に西田卯三郎から買受けた旨主張するので検討するに、前認定〔1〕ないし〔16〕の事実の経緯、とくに〔7〕〔8〕〔15〕の事実を考え併せると、参加人の支配人早出勝人が参加人を代理して本件建物の売買契約を締結した相手方は尾川原修一であり、同人が西田卯三郎名義で契約したものであつて、当時瀕死の病床にあつた西田卯三郎ではなかつたことは明らかであり、また西田卯三郎には何ら本件建物を売却処分する権限があつたとはいえず、同人がこれを売渡す筈もなく、西田卯三郎から本件建物を買受けたという参加人の前示主張の事実が認められないことが明らかであつて、前示措信しない証拠のほかこれを認めるに足る的確な証拠がない。
なお、尾川原修一が西田卯三郎名義で参加人への本件建物の売買契約をしたものであるが、参加人は前示のとおり西田卯三郎が山本利隆から本件建物を買受け、これを参加人に転売した旨主張し、右尾川原修一が右西田の代理人であるとか、或いは右尾川原自身が本件建物の処分権限を有し、同人からこれを買受けた事実の主張がないばかりか、山本利隆と右尾川原の譲渡担保契約によつて、両者間の内部関係においても本件建物の所有権を同人に移転するいわゆる強い効力を有するものであつたこと、したがつて同人が右譲渡担保物件たる本件建物につき完全な処分権限を有していたことなどについては、被担保債権の時効消滅などとも関連して疑問があるうえ、そもそも右の各点についてはその主張も立証もないから、これにつき論及するまでもなく、前示参加人の本件建物転買の主張は採用できない。
(二) 転売の効力の検討
被控訴人らは、本件控訴事件の(四)2(2)の再抗弁及び参加事件の(三)2(2)の抗弁として仮定的に本件建物の西田卯三郎参加人間の売買契約があつたとしても、それは参加人代表者久保祐吉及び支配人早出勝人の弁護士法七二条、七三条違反の行為としてなされたもので無効である旨主張するところ、前認定〔9〕ないし〔22〕の事実とその経緯に照らし、右久保祐吉の弁護士法七三条違反の行為及び右早出の弁護士法七二条違反の行為によつて西田卯三郎を売主名義とする参加人への本件建物の売買契約がなされた事実を認めることができるが、前示のとおり西田卯三郎、参加人間の本件建物の売買契約が認められない以上、もはや右弁護士法違反の事実とこれによる右売買契約の無効いかんに論及する要はない。
第三結論
以上のとおりであるから、被控訴人らの控訴人に対する本件建物につきなされている西田卯三郎の所有権移転登記の抹消登記手続請求及び参加人に対する本件建物につきなされている参加人の所有権移転登記の抹消登記手続請求はいずれも理由があるが、参加人の控訴人及び被控訴人らに対する本件参加請求はいずれも失当であつてその理由がないことが明らかである。
よつて、被控訴人らの控訴人に対する右請求を認容した原判決は結論において相当であるから、本件控訴を棄却し、参加事件につき、被控訴人らの参加人に対する右請求を認容したうえ、参加人の本件参加請求をいずれもこれを失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法九四条、九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官吉川義春 裁判官甲斐 誠 裁判官玉田勝也)
(別紙)
目 録
(換地前の表示)
鹿児島市樋之口町一二〇番
家屋番号同町四七五番の二
一、木造瓦葺二階建居宅 一棟建坪 二七坪五合七勺
外二階 四坪
(増築前木造板葺平家建居宅一棟建坪一二坪二合五勺)
(換地後の現在の表示)
同市同町五番地三六
家屋番号同町五番三六
一、木造瓦葺二階建居宅一棟 床面積
一階 五九・七二平方メートル
二階 四四・六二平方メートル